カスハラ対策にAIは有効?利用できるAIシステムも紹介
顧客から過剰な要求を行ったり、商品やサービスに不当な言いがかりをつける悪質なクレームである「カスハラ」は、企業にとって大きな問題となっており、カスハラへの対策は急務とされています。
AIは様々な場面で利用されていますが、カスハラに対してもAIは活用できるのでしょうか。ここでは、カスハラによる影響を解説するとともに、カスハラに対してAIができること、カスハラ対策に利用できるAIを紹介します。
現代のカスハラ事情
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によると、企業調査で過去3年間に相談があったと回答した企業の割合として、カスタマーハラスメントは19.5%であり、パワハラ(48.2%)やセクハラ(29.8%)に次いで多いという結果になっています。
さらに、2023年に1030人に行った調査によると、直近1年で1回以上カスハラを受けたとの回答は64.5%であり、1回~5回受けたという回答が53.1%となっています。
そして、このような状態にもかかわらず、企業においてカスハラ対策に関する方針を策定していない企業が28.2%でもっとも多く、「接客対応の基本方針はあるがクレーム全般の方針は無い」という企業も12.6%でした。カスハラが発生する確率が高いにもかかわらず、多くの企業で対策が取られていないのが実情のようです。
カスハラによる悪影響
カスハラは、企業に対してどのような悪影響を及ぼすのでしょうか。
効率の低下
カスハラでは、クレームに対しての現場や電話での対応が必要になり、顧客対応に人員を割かなくてはならないので、その人員はほかの業務ができません。さらに、社内での対応方法の検討、弁護士などへの相談などに時間が取られます。
クレームに対して慰謝料を支払ったり、商品やサービスの値下げなどを行った場合には余計な支出が発生してしまい、利益率も下がるでしょう。
このような業務効率の低下、利益効率の低下はカスハラによる大きな被害です。
スタッフの離職
スタッフの離職もカスハラによる弊害です。カスハラの対応をするスタッフは大きな精神的苦痛を感じ、それが離職につながってしまう可能性があるのです。
カスハラでは、長時間クレームを聞かされたり、暴言や揚げ足取り、脅迫、過度な要求などを受けたりします。こういったカスハラは、スタッフに大きなストレスを与えてしまいます。それによってスタッフは離職を選んでしまうのです。
企業がカスハラ対策を行わなかったり、スタッフのケアを行わなかったりすると、新しいスタッフを採用したとしてもまた辞めてしまうでしょう。スタッフの離職が続くと、採用のコストだけでなく、企業のブランドや評判にも悪影響が出てしまう可能性もあります。
カスハラに対してAIができること
カスハラ対策は急務ですが、カスハラ対策においてAIができることとはどのようなことでしょうか。
カスハラをAIが検知し早期対応
AIを用いることで、カスハラの検知、早期対応ができます。
音声認識AIなどを利用すれば、AIは音声会話の内容をテキスト化し、内容を認識できます。電話や対面でのやりとりのなかで、カスハラに該当するような不適切な言動があった場合に検出することができます。早期にアラートを出すことで、上長や専門部署などが対応することが可能です。
それによって、スタッフの負担を減らすとともに、カスハラの早期沈静化を図ることができます。AIは学習能力にも優れているので、様々なカスハラのデータを取り入れていくことで、より正確にカスハラを検知できるようになります。
カスハラの音声を変換
AIを利用することで、通話におけるカスハラの音声の声色を変換し、怖くないような音に変えることができます。
カスハラにおける怒鳴り声や感情的な声によって、スタッフは大きなストレスを受けることになります。AIの感情認識・音声加工技術を用いることで、通話音声を穏やかなトーンの、怖くない音声に変換できます。
ソフトバンクが東京大学と共同で行った研究によると、怒鳴り声や感情的な声などをAIがリアルタイムに抑制することで、変換後には怒りを感じる度合いが30%以上抑制されたというデータがあります。
カスハラの音声を返還することで、スタッフのストレスを減らすことができるのです。
カスハラ対策の研修に利用
AIはカスハラ対策の研修に利用することができます。
カスハラにおいては、クレーマーは様々な行動を行ってきますので、スタッフはマニュアルにない対応を即座に行わなくてはなりません。その結果、適切な対応を行えずにパニックになることが多いものです。
AIに様々なクレーマーの言動や行動を学習させることで、スタッフはリアルなカスハラを疑似体験し、対応の学習をすることができます。クレーマーへの対応を学ぶとともに、AIによってスタッフが毅然とした対応ができているか、適切な回答ができているかも評価してもらえます。
カスハラ対策の研修をAIで行うことで、スタッフの離職率低下や対応効率の向上、クレームの拡大を防ぐなどの効果が期待できるでしょう。
自動対応音声にAIを利用
AIはカスハラへの自動対応音声にも利用できます。
電話などにおける自動対応音声にAIを利用することで、初期の対応をAIが行えますし、要件の確認などを行えるので事前に対策を準備することができます。また、AIであれば冷静に対応をするので、カスハラにも一定の対応ができますし、できないものはできないと回答をすることができ、スタッフの心的苦痛を減らすことできるでしょう。
AI自動対応音声を用いれば、夜間などの対応時間外のクレームにも対応ができますし、対応されないことによるクレーマーの怒りを抑えることができます。自動音声対応AIにも、様々なクレームの内容を学習させていくことで、より適切な回答ができるようになるでしょう。
カスハラ対策に利用できるAIサービス
AIはカスハラ対策に利用できますが、ここでは目的ごとに利用できるAIサービスを紹介します。
接客オンデマンドAI
「接客オンデマンドAI」は、音声対話型AIを利用したサービスであり、人の会話を認識し、その文脈を理解して回答をすることができます。
GPT連携によってクレームに関するあらゆる情報を学習させることができるので、適切な回答が可能になります。さらに、カスハラの早期検知も可能です。スタッフとの会話のなかでカスハラが発生した段階でアラートを出し、上長に対応を引き継ぐなどができます。
また、やり取りのなかでAIが回答の補助を行わせることも可能。スタッフはやり取りをしながら、回答の補助をテキストで受けることができます。カスハラにおけるやり取りのデータを蓄積し、分析することも可能です。対応においてどこが問題だったのか、どのように対応すべきかを後で見直すことができます。
接客オンデマンドAIではサポート体制が充実しているので、AIへの学習やシステムの導入、運用時のメンテナンスやAIへの再学習などをすべて行ってもらえます。社内に専任のスタッフを用意しなくてよいというメリットもあります。
カスタマーハラスメント体験AIツール
引用:富士通(https://pr.fujitsu.com/jp/news/updatesfj/2024/06/3.html)
富士通は、東洋大学と共同で「カスタマーハラスメント体験AIツール」というカスハラ対策AIを開発しました。
このシステムは、犯罪心理学を活用しカスタマーハラスメントの現場における会話のパターンをAIが再現。様々な業種において、予測不能なカスハラの疑似体験ができます。
また、適切な応対スキルを促すナラティブを生成するとともに、その内容を語りかけるアバター映像も自動生成。それぞれに合わせて改善を促すことができます。豊富な経験を持つベテランスタッフがいなくてもカスハラ対策の研修が可能となっています。
IVRy
引用:IVRy(https://ivry.jp/)
対話型AIを開発するIVRyでは、AIを利用した電話自動応答サービスを提供しています。
これは、顧客の発言をAIが要約し、どのような内容だったかを企業に伝えるというシステムです。自動応答の内容を事業者が設定できるので、分岐設定で担当部署に直接転送するなども可能となっています。
AI電話自動応答により、カスハラによってオペレーターの時間が奪われたり、オペレーターが辞職したりといった事態を防ぐことができます。
MiiTel
引用:MiiTel(https://miitel.com/jp/)
AI音声解析システムを手がけるRevCommの「MiiTel」は、カスハラ対策に利用できるサービスです。
このサービスでは、電話営業などの応対の様子を録音・録画し、AIで音声を解析。話すスピードや声の大きさなどから感情を読み解き、顧客の状態を可視化できます。また、カスハラにおいてよく発話される単語を感知し、管理者へ通知を飛ばすなども可能。管理者がオペレーターとの会話に入れるような仕組みとなっています。
オペレーターの対応が適切だったのかを証拠として残すことができますし、対応の手順や言葉などを改善することができます。
カスハラ対策AIを導入するときの注意点
カスハラ対策のAIには様々なものがありますが、導入する際には注意すべき点があります。あらかじめ理解しておいたほうがよいでしょう。
AIだけに対応させない
カスハラ対策のAIを導入する際のフローの設計を行う際には、AIだけにクレーム対応をさせるというのは避けたほうがよいでしょう。
AIは音声を聞き取り、文脈を理解して回答をすることができます。しかし、AIにクレーム対応をすべて任せてしまうと、顧客の怒りを静めることはできないですし、怒りがより大きくなってしまうかもしれません。
クレームを人間が聞き、真摯に向き合っている姿勢を示すなどは一定必要になります。あくまでAIは顧客対応の補助や、初期の対応において用いるのがよいです。
AIへの学習が必要
カスハラ対策AIを導入する際には、AIへの情報の学習が必要ということは覚えておきましょう。
AIは膨大な情報を学習することで、音声でのクレームの内容を理解することができるようになります。さらに、カスハラにどういったパターンがあるか、顧客はどのような言葉を発するかなどを理解します。
導入する際にはそのためのデータが必要になりますし、運用開始後にもデータの収集と再学習が必要になるということは覚えておきましょう。
情報の共有を行う
カスハラ対策AIを利用する際には、スタッフ同士の情報の共有が重要になります。
カスハラにおける加害者の行動や言動は予測が難しく、新しい事例が日々生まれます。そういった手法をカスハラ対策AIに学習させなくてはなりません。そして、いち早くスタッフ自身もそういった手法があることを理解しておく必要があります。
カスハラのやりとりや対応結果などを、スタッフ同士が共有しやすいようなシステムを選ぶ必要があるでしょう。
まとめ
カスハラはスタッフの離職につながりますし、企業の生産性に大きな影響を与える問題です。AIを利用することで、カスハラによるコストを抑えるとともに、スタッフの離職を抑えることができます。
「接客オンデマンドAI」では、GPT連携により膨大な情報を学習させることができますし、大規模言語モデルによって文脈を正しく理解することができます。現場において、いち早くカスハラの兆候を読み取り、最善の対応策を提案することが可能です。
カスハラのデータを蓄積し分析することで、対応の見直しができ、より良い対応方法を見つけることができます。それぞれの企業ごとに柔軟にシステムを設計することができますので、ぜひお問い合わせください。